江戸時代中期以降に盛んになったといわれる霊場巡りは、この飯能地方でも盛んであったようです。
中山の千日堂から名栗川をさかのぼり、原市場から東吾野ぺ出て、日高町猿田の正福寺で終わるという高麗郡三十三箇所の札所でした。
中山千日堂─中居宝蔵寺─平松円泉寺─川崎普門寺─上広瀬宝蔵寺─馬引沢常円寺─野田長徳寺─双柳秀常寺─矢颪浄心寺─飯能観音寺─飯能善道寺─飯能西伝寺─飯能能仁寺─永田萬福寺─原町広渡寺─下火長泉寺─小岩井宝泉寺─小瀬戸岩下堂─原市場西光寺─原市場辻堂─石倉医王寺─唐竹宝性寺─日影辻堂─原市場長福寺─中藤円通寺─小瀬戸野口堂─白子長念寺─横手瀧泉寺─高麗本郷長寿寺─栗坪勝音寺─高岡如意輪堂─新堀法恩寺─猿田正福寺
以上が三十三箇所霊場ですがちょうど今ごろの季節には、自装束で鈴をならしながら、山すそを行く巡礼の姿がそこにみえたのではないでしょうか。
それぞれの札所には、ご詠歌がきまっており、それを唱えての巡礼は信仰とは別に、のどかな風景でもあったろうと思われます。
その中のいくつかをあげるとつぎのようなものです。
中山千日堂
濁らじな神のうてなの水の
面影を写せる人の心よ
矢颪浄心寺
なべて世の願いをみてし諸ぴとの
心豊かに年や経ぬらん
飯能観音寺
法の音幾世絶えせず仰ぐらん
百の願いの人の心よ
飯能能仁寺
遠近の山路をこえて多峰主の
六つの巷に塵もあらじな
原市場辻堂
踏み分けていつしかここに原市場
法の教えは末も迷わじ
栗坪勝音寺
みね堂の法の松風勝音の
調べ絶えせぬことぞうれしき
猿田正福寺
諸人の願う心に影そえて
盛りに富める道を与えん
現在でも秩父の札所巡りは盛んですが、高麗郡のそれは廃寺となったものや忘れ去られて閑寂となり堂宇のみ残っているものなどがあって、昔日の巡礼は行われておりません。